『絵画材料事典』によれば、メギルプとは以下のような定義なる。
Megilp メギルプ マギルプ (Mastic マスチック樹脂をも見よ) とはテレビンにマスチック樹脂を溶かしたものに,更に亜麻仁油を加えた画用液の塗料媒質である。このメデュームはゼラチン様の粘りがあり,卓越したききの良さのために画家は昔から愛用している。エナメル状の効果があるが,年月を経るともろくなり黄化が起こる。
『絵画材料事典』
マスチックワニスは乾性油と混ぜるとメディウムをゲル状にする性質がある。乾性油、マスチック、テレピン精油によるゲル状のメディウムは、メギルプと呼ばれ、18~19世紀にかけて使用された。ゲル状と言っても、筆やパレットナイフで触れると柔らかいバターのようであり、絵具に加えると絶妙な筆運びの流動性の高い粘液になる。これは油彩技法の描画用メディウムとしてはたいへん使い心地がよい。しかし、メギルプによる絵画層は時とともに脆くなり、暗変、クラックその他様々な問題の原因となる。
メギルプという描画用メディウムが、どのような経緯で生み出されたのかは、曖昧で定義しづらい。なんとなくその経緯に関する予想はできるものの、参考までに以下の動画を上げておくに留めておく。
それ以上はコメント欄等で議論されればよいかと思う。
メギルプはスペリングも作り方も様々であるが、処方によっては油と同量のマスチックワニスを使用するなど、樹脂の量が多く感じられる。マスチックワニスはテレピン精油も含まれるので、メディウム内にはマスチック樹脂1.5割程度となるが、精油が揮発された後を考えると多いのではないか。マスチック、ダンマルなどの天然の軟質樹脂は、適切な量を加える分には良い面が多いが、それ自体は脆いものであり、溶剤に反応しやすく、熱にも弱い。そこで、ここではできるだけ樹脂の量を抑えるかたちで、マスチックによる粘度の高い、準ゲル状メディウムを作成する。
作成方法は、J・シェパードの『巨匠に学ぶ絵画技法』P.13に倣いつつ、材料の分量を変更している。J・シェパードのレシピは乾性油3、マスチック1、テレピン3の割合だが、それを乾性油6、マスチック1、テレピン3で行なう(または乾性油8、マスチック1、テレピン3でもゲル状メディウムはできる)。私の個人的な理論上から判断した割合であり、このメディウムで作成した絵画が数十年後どのような変化を被るかというデータはない。各自の判断に基づいてレシピを調整し、ご利用頂きたい。
本サイト「ブラックオイル作成」手順に従って、ブラックオイルを用意する(黒いメディウムが嫌な場合は、通常の乾性油でもかまわない)。マスチック樹脂は非常に高額だが、今回の用途では、ダンマルで代用することはできない。
各材料の使用量は、ブラックオイル 60g、マスチック 10g、テレピン 30gがよいかと思う。
1.予め処方の量のテレピン精油を空き瓶など入れて用意しておく。この空き瓶は、最終的にブラックオイルにマスチック樹脂を溶かしたものも入れるので、その分の余裕がある大きさの空き瓶にしておく。また、熱いオイルを注ぐので、そこそこの耐熱性がありそうな厚みのある容器がよい。
2.処方の量のマスチック樹脂を用意しておく。
3.ブラックオイルを耐熱ビーカーに入れて、カセットコンロなどの加熱器具で100℃弱まで火を入れ、用意しておいたマスチック樹脂を、少しづつ投入する。樹脂は100℃弱の温度で溶解するので、その温度を維持しながら、しっかり溶けるまでしばらくかき混ぜる。
4.樹脂がすっかり溶けたら、熱いうちにガーゼで漉しながら、先にテレピン油を入れて準備しておいた保管用の容器に注ぎ入れる。
熱いオイルをガラス瓶に注ぐと割れる危険もあるが、冷えたテレピン精油も入っているので、たぶん大丈夫だろう。1時間後にはゲル化していると思われるが、マスチック樹脂の量をより少なくした場合は、数時間から一日待たねばならないこともある。乾性油8、マスチック1、テレピン3でもどうにかゲル化する。実はパレット状で亜麻仁油にマスチックワニスを混ぜただけでも、ややゲル状になるメディウムができる。しかし、等量くらい混ぜないといけないので、軟質樹脂含有率が高くなると思う。
このメディウムが推奨されるかというと、個人的にはよくわからない。ブラックオイルは他の加工亜麻仁油で割ったものを使い、樹脂量を乾性油6~8:樹脂1くらいにして、ゲル化も穏やかな状態にすると理想であると予想するけれども、データがあるわけではない。
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