アイボリーブラック(象牙炭)

アイボリーブラックは本来は象牙を焼いて炭にした黒顔料のことであるが、現在、象牙はワシントン条約によって取引が禁止されている為、アイボリーブラックの名で販売されている絵具のほとんどは牛または豚の骨を炭化させたものである。とはいえ国内には象牙の在庫がまだあるようで、本物のアイボリーブラックの入手は難しくない。

動物由来の黒顔料の素材としては、骨は髄や血管、脂などいろいろな成分を含むので下処理に手間がかかるし、完成した炭素も構造の均質性にムラがあることが考えられる。象牙はそれと比べると素材が均質かつ高密度で黒顔料の素材としてかなり優れているのではないかと思う。それに中世の芸術家の工房では象牙を取り扱うところも多かったであろうから、廃棄される端材の活用にもなったのではないかと思う。作成した顔料も骨を原料としたものよりも品質が安定していたと予測できる。炭の黒顔料は廃棄物の再利用であることが多かったであろうが、その中でも象牙炭は均質性や密度などの面で、総合的に炭系の黒の王者と言ってよかった存在であろう。動物性の黒の黴が出やすいという欠点があったとしても。

本項では象牙炭を作ってみるが、日本では現在、象牙事業は登録制になっており、事前に自然環境研究センターへ特別国際種事業者の登録が必要となる。個人的に端材を購入し、私的な範囲で使用する分は問題ないが、事業として販売や譲渡するには登録が要る。また、国外への持ち出し、国内への持ち込みはワシントン条約等で別に規制されている。国によっては象牙の販売にかなり厳しい罰金や禁固刑が定められていることもある。ここでは本格的な利用は想定せず、昔の顔料を理解するという目的で製作に入ってみたい。

象牙は印鑑等を製作する際に発生する端材を入手するのがよい。印鑑などを製作している業者がネットで販売していることがある。端材であるから、さまざまの形状のものがある。

写真は短辺が数ミリの端材であるが、火力の強い炉があれば、このくらいの大きさの象牙は芯まで漆黒になる。ダッチオーブンに入れてたき火の中に数時間入れておいたケースでは、難の問題もなく芯まで炭化していた。その焼き方についてはボーンブラック(骨炭)の項を参照せよ。

しかしそれができる環境は限られていると思うので、本項では家庭用カセットコンロを使った方法で話しを進める。というのも象牙を焼いた時の臭いは強烈で、昔の火葬場の臭いにも例えられるほどであるから、実行する場所はうまく選ばなければならない。家庭の室内で実行するのはやめた方がよい。衣類も臭いがついても困らないものを着ておく方がよい。

粉砕機などで細かくしてから焼くと均一に炭化されて一度で済むが、象牙はかなり強度があり、機械がなければ粉砕は手間がかかるであろう。その場合はいったん焼いて炭化させてからだと、乳鉢で簡単に砕けるようになるので、細かくしてから再びしっかり炭化させるとよい。小さめのブリキ缶に入れて焼くのだが、蓋に小さな孔を開けておく(ガスが逃げるようにしないと、蓋が吹っ飛ぶか、缶が爆発する)。

強火で20分ほど焼く。

強火で20分間焼く。昔の火葬場のような臭いがするとは聞いていたけれども、確かに単に臭いというよりは、なにか不気味な臭いではあるので、近所迷惑にならないように気を付けよう。

端材の表面は炭化して黒くなっている。この時点で乳棒で軽く叩くだけで割れるので、ある程度細かくすり潰す。

乳鉢で摺ると中身はまだ茶色の段階であることがわかる。

乳鉢で細かくしたところで、缶に戻して再び焼く。しっかり焼くほど黒くなってゆく。

粉砕した顔料は250メッシュくらいのフルイを通しながら水で洗うとよい。250メッシュくらいであれば絵具を練るときにそれほど手間がかからない。粗いと手練りに時間がかかって難儀する。また、水で洗ったのちに、しばし置いて顔料が沈んだのち、上澄みが薄茶をしていたら、流して再び洗うとよい。なお、主成分がリン酸カルシウムの為、黴が発生しやすいから、よく乾燥させから保存する。

炭は固くて滑らかな顔料にするまでの工程が難儀なものもあるが、象牙炭は乳鉢乳棒で比較的楽に擦ることができるし、展色材と練り棒で練る段階でも楽にペーストを作ることができる。骨材は健や脂などさまざまなものが付着していて下処理に手間がかかるが、牙の端材は均質で焼きやすい。現在は象牙の取引が規制されており、気軽に扱うことができないが、昔の芸術家の工房で、端材が必然的に発生してくる状況なら、アイボリーブラックを使うのは自然な流れであったと思う。

アイボリーブラックは骨炭と並ぶ動物由来の炭の黒であるが、骨炭が炭素含有量10~15%であるのに対し、アイボリーブラックは20%程に達する(Natural Pigment等の顔料販売店に使用による)。その為、骨炭比較してよる強い黒であったといえる。

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