ダンマル樹脂

概要

ダマール、ダンマーとも表記。英語はDamar、Dammar。東南アジアで、フタバガキ科から採取される軟質の現存樹脂。インドネシアのスマトラ島から採れるものが有名。

ヨーロッパで使用されるようになったのは19世紀以降である。マスチックなどを使用しているときに湿度の高い環境で起こるブルーミング(白濁現象)が起こり難いと言われる。マスチックに比べてとにかく安い。

テレピンなどの揮発性溶剤に溶かしてダンマルワニスとして使う。ダンマルはテレピンにはよく溶解するが、アルコールには溶けない。通常はダンマル1に対しテレピン2、あるいは樹脂の濃度30%でニスを作ることが多い。市販されているダンマルニスもほとんどがこの割合である。実際のやり方は「ダンマルニスの作り方」で紹介する。ダンマルニスは様々な使用用途が考えられる。乾性油と混ぜて描画用メディウムを作ったり、テンペラの媒質の材料、保護ワニス、加筆用ワニスとして使われる。ダンマル樹脂はもともと丈夫な皮膜を作るわけではなく、単体で使うと時間の経過とともに黄変したり脆くなったりする。1:3~4のダンマルワニスは油絵の保護ワニスとして使用できる。一回目の塗りがよく乾燥してから、二回目を塗る。作品とワニスを暖かいところにおき、柔らかい筆で塗布すると、ワニスの伸びもよく、テレピンの曇りなども起こらない。二十年ぐらい経つと、ダンマルワニスの層は黄変してくるが、テレピンで再び溶かすことのできる性質を利用して、また新たに塗りなおすことがでる。加筆用ワニス(ルツーセ)としては、テンペラにほんの少しダンマルワニスを含めて、これを加筆しようとする画面に塗布する。画面が完全に乾いていたならば、こうして塗布すると、画面の色は濡れた状態となり、上に塗る絵具の付き具合も良くする。描画用のメディウムにこの樹脂を加えれば、画面に透明感と光沢を与えるとともに乾燥も多少速める。これはダンマルワニスのテレピンが揮発した時点で、樹脂がある程度固まった状態になるからで、油の方は乾いているわけではないが、この上に次の層をのせることができるぐらいにはなる。各絵具層同士の食いつきも良くし、絵具のノリが良くなると感じる。日頃絵具をのせ難いと感じている人は加えてみると良い。ダンマル樹脂は加熱して乾性油に溶かすこともできる。ダンマルの融点は種類によりまちまちだが、80℃ぐらいの比較的低い温度で溶解できる。その方法については、当サイトのメディウムを調合するで紹介してある。

最後に樹脂の名称の複雑さについて、”Plant Resins: Chemistry, Evolution, Ecology, and Ethnobotany”を参照しつつ整理してみる。ダンマルは東南アジアのフタバガキ科に属する植物が主たる採取源である。しかしその他植物の樹脂もダンマルと呼ばれることがあり、用語としてのダンマルは非常に曖昧である。”Plant Resins”によると、そもそもはマレー人が樹脂で作った燈火をダンマルと呼び、それが樹脂全般を指す言葉と転訛していったということだ。やがてヨーロッパと大規模な取引がされる中で熱帯アジアからの樹脂をdammarと呼ぶようになった。フタバガキ科の他、カンラン科(burseraceae)も挙げられている。カンラン科ではプロティウム属(Protium)、フタバガキ科では、サラノキ属(Shorea)が特に採取源として言及されている。サラノキ属には仏教寺院に植えられることで有名なサラソウジュ(沙羅双樹、学名Shorea robusta)が含まれる。なお日本の沙羅は、ツバキ科のナツツバキで、耐寒性の弱い沙羅双樹の代用として植えられた為に沙羅とも呼ばれるようになっただけである。ここからさらに複雑な話になるが、マレー諸島の東、乾燥した土地の生えるAgathisが、はじめdammaraという属に分類されたそうである。Agathisはコーパルが取れる樹脂である。植物の科、属、種などは随時更新されるので現状どうかはわからぬが、wikipediaを見たところでは、Agathis dammaraという学名の樹木もある。さて、Plant Resinsによると、この樹の樹脂を現地ではダンマルと呼ぶが、市場ではコーパルと呼ばれるものであると書かれてある。

ダンマルバツー

生きている樹木からタッピングで採取される以外に、地面から取ったダンマル樹脂も昔は多く流通していたらしい(林良興 1998 熱帯林業42巻 p.54)。ダンマルに化石化する要素はないが、半化石樹脂だと思われていたかもしれない。写真は地面から取ったというダンマル樹脂であり、通常よりも色が濃く不透明である。一見コーパルに見えるが、テレピンに溶けるのでダンマルであろう。

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