動画:フレスコ技法の材料 1~3
フレスコ技法の材料、特に漆喰についていろいろと語った動画を公開しました。私も鳥越さんも油絵しか描かないので、フレスコについて語っていいものかどうかは疑問ですが、何かご指摘等あれば是非コメント欄へ。鳥越さんはともかく私の方は一時期フレスコ技法、特に漆喰と格闘していたことがありました。それはウィトルウィウスなどの昔の技術書を理解したかったから、というのと、ポンペイの壁画の色彩や特に艶やかな表面に関心があったらからですが(ポンペイの方は発掘後の処理で鑞が塗られてしまったせいとも聞くので、表面処理上の参考にはならなかったのですけれども)、その時期に蓄えた知識で話をしております。

第1回目はフレスコ画とは何かという点を大ざっぱに。前置きみたいなもので、特にこれと言って重要な点はありません。

動画では触れられていませんが、入門書としては宮下孝晴(著)『フレスコ画のルネサンス 壁画に読むフィレンツェの美』がよろしいかと思います。

第2回目はフレスコ技法の仕組み、言い換えれば漆喰の仕組みについて述べています。石灰岩、生石灰、消石灰などについて述べておりますが、これも一般的な説明に終始しており目新しいものはありません。


第3回目は引続き漆喰に仕組みについて語っております。

動画では触れていませんが、参考書として、大野彩(著)『フレスコ画への招待』がよろしいかと思います。

ここまでは前説のようなものであり、次回以降、ご家庭で漆喰、言い換えれば消石灰を作る方法を紹介する予定です。もちろん、買ってきた方がはるかに安くて均質な消石灰が手に入りますが、まぁ、物事の理解の手助けになるかな、という目的の為にということで。

| 絵画材料 | 08:00 PM | comments (0) | trackback (0) |
ブルックナー楽曲解説とお薦めCD
交響曲というジャンルが最も好きだと語ってきましたが、その交響曲界の中でもジャンルの頂点を極めたのではないかと思わしき作曲家がブルックナーです。これから私が個人的に気に入っているブルックナーのCDを紹介してみたいと思うのですが、ベートーヴェンなどと違って、ほとんどの日本人はブルックナーと言っても知らない人の方が遥かに多いことでしょうから、ちょっとばかり説明したいと思います。ブルクナーは、ドイツ、オーストリア限定で高い知名度を誇るようですが、EU全体を見渡してもやっぱり微妙かもしれません(ウィーンに行ったときはコンサートプログラムにブルックナーの曲が多数含まれていましたが、ロンドン行ったときは、たまたまでしょうけれども、どのホールのプログラムを見ても、ブルックナーの曲は1つもありませんでした)。ブルックナーは19世紀にオーストリアで活躍した後期ロマン派の作曲家で、長大な交響曲を第9番まで作曲しました。他に宗教曲などがあるものの、ほとんど交響曲メインで作曲活動を行なっていたといえます。1曲の演奏に1時間、あるいはもっとかかるほどが長いため、理解するまで、多少時間がかかります。私も最初に聴いたときは、全く何のまとまりもない音楽に聞こえたものです。いかにしてブルックナーを聴けばよいのか、交響曲解説書などにも、その点についていろいろ書かれてきたものですが、私としては、何よりも、交響曲という形式についてよく知ることが、ブルックナーへの理解に繋がるのではないか、と思うわけです。ブルックナーの曲は特殊なようであって、実はしっかりと交響曲という形式に沿って作られていますので。そこで、交響曲の基礎について説明して手短にみたいと思います。

交響曲は基本的に4つの楽章から成っています。第1楽章はアレグロなど速度が速めの楽章がきます。ソナタ形式になっており、全曲中でも重要な主題がでてくるので、通常はメインの楽章となります。第2楽章はうってかわってアダージョなどのゆっくりなテンポの曲になります。これを緩徐楽章といいます。第3楽章は、舞踏的で快活な感じのリズムの曲がきます。初期の交響曲では貴族的で優雅な感じのメヌエットが取り入れられました。交響曲の規模が大きくなるに従ってメヌエットでは説得力がなくなってきたのか、ベートーヴェンあたりから舞踏的ながらも音楽性が強くなるスケルツォというのになります。第4楽章(フィナーレ)の形式は様々です。交響曲の歴史上扱いが変遷する楽章であり、初期の古典的な作品では第1楽章が曲のメインになることが多かったものの、交響曲全体が大規模化してくると、フィナーレに重点が置かれるようになってきます(ベートーヴェンの第九など)。いずれにしても再び早めのテンポ指示で華やかな締め的な楽章になることが多いと考えてよろしいでしょう。以上が楽章構成でが、第1楽章で採用されるソナタ形式について言及せねばなりません。まず主題となる旋律というか雰囲気みたいものが二つ提示されます。先に第1主題がメインテーマとなり、それとは雰囲気の異なる第2主題が提示されます。それられが比較されたり対立したり和解したりなどして進行し、最終的な解決によって終わるという形式です。全体の構造としては、主題が提示される「提示部」、形をかえつつ各主題が奏される「展開部」、そして再び主題が奏される「再現部」が来ます。再現部では再び第1主題と第2主題が流れるのですが、お互いが近づいており、和解というか、解決が導かれる形で終わります。解決の仕方ですが、第2主題の調性を第1主題に合わせる感じになったり、あるいは第1主題も多少の変化を帯びるなどすることもあります。それで終わってもいいのですが、さらにコーダという終結部がきて曲がしっかりと締まります。二つの主題の緊張感と解決がソナタ形式、あるいは交響曲のキモであり、そこを楽しむジャンルと言い換えてもよいかもしれません。交響曲というのは基本的に絶対音楽であり、標題音楽のようなストーリィ性はないのですが、第1主題は男性的なイメージであるのに対し、第2主題が女性的なイメージの旋律になることが多く、人間関係に例えられることもあります。あるいは悲劇的な第1主題に対して、穏やかで平穏な感じの第2主題を組みあせて、人生の変遷や運命などを感じさせることもあると言えますので、そんなふうにイメージして楽しむという方法もあるかもしれません。というわけで、これが交響曲の基本構造です。

普通のこのような形式に関する知識がないとしても、古典期の交響曲ならある程度直感で感じ取れるものなので、それほど意識しなくても曲の魅力は伝わるのですが、ブルックナーの場合は長大なスケールでソナタ形式が行なわれることもあって、初見では理解できないということになり、それが不理解へと繋がっているのではないかと思います。ブルックナーと同時代の作曲家になると形式というものがだいぶ崩れて自由になってきているのですが、ブルックナーも一見そんなふうに見えつつも、実は交響曲という構造にかなり忠実に作られているような気がします。未完成に終わった第9番を除いて全て4楽章構成となっており、第1楽章がソナタ形式になるという、非常に古典的な構造で作品が出来ているのです。ブルックナーのソナタ形式について、私なりに解説してみましょう。ブルックナーは生涯に渡って基本的な構造はあまり変わらずに作曲しているので、各曲によって多少の違いはありますが、概ね以下の通りだと思って差し支えないと思います。第1楽章ではまず、弦楽器の震えるような、霧の中から現れるような音で始まります。世に言う「ブルックナー開始」です。その霧の中で管楽器などが主題を表しはじめるのですが、そこが非常にカッコいいと言えるでしょう。そして全体で高らかに主題が表明されます。ところが・・・、ブルックナーの場合、主題の旋律は自体は一般的な感覚からすれば特に名旋律でもなんでもない、むしろ普通の人なら「何これ?」と感じるだけかもしれない微妙な旋律だったりします。旋律というよりは、何かのファンファーレか、あるいは感性が合わない人にとっては何かの警告音かと思われてしまいそうなものが主題となるのです。もちろん、ブルックナーが好きになるころには素晴らしい音楽と思えるのですが、初見ではなかなか理解してもらえないところかと思います。そしてそれを大音響で提示するので、たいていは「ウルサイ」と苦言を言われることもあるのですが、しかし今はそれは置いといて、ソナタ形式なのですから、この主題をしっかりと覚えておきましょう。第1楽章どころか、曲全体を支配するテーマとなるものです。その後、もう一回、第一主題の流れが、多少のアレンジはありながらもくり返されます。もう一度しっかり主題を頭に刻み込みましょう。そしてようやく第2主題が始まります。第1主題はやや主張の強い音楽でしたが、今度はたぶんさっきよりは心地よい旋律が流れることと思います。ブルックナーの場合は曲が長大なので第3主題まで提示されます。第3主題はさらに輪をかけて、理解してもらいずらい旋律であることが多いうえに、展開部ではあまり活躍しなかったりするのですが、それも今はおいときましょう。主題の提示と言っても、単純に主題を順番に並べただけでは芸がないので、各テーマを端々に織り交ぜたりとか、いろいろ工夫するので、初見ではわかりずらいかもしれませんが、少なくとも第1主題だけでも覚えておくと良いでしょう。提示部が終わったら、展開部に入りますが、その間に経過部と言いますか、ちょっと雰囲気の違う音楽が流れますが、実はここがなかなかいい感じだったりします。展開部はソナタ形式において、緊張を伴う肝心な場面ですが、伝統的な交響曲では小節数的にはそれほど長いものではなかったりします。が、ブルックナーの場合は展開部もたっぷり尺が取られています。先ほど提示された主題が形を変えながら奏されます。初めは第1主題、次ぎに第2主題というぐあいで進行します。時に大音響で鳴らしたり、突然止まったり、静かに奏でてみたりという具合なので、ぼんやり聴いていると、何の脈絡もない、煩くて無駄な音の羅列に聞こえてしまうかもしれません。初見では、これが音楽なのか?と思ってしまうかもしれません。激しい大音響が鳴ったと思ったら、突然静かに寂しげになってしまうなど、ここが一般の方々に理解してもらいずらいところなのではないかと思います。取り留めがないとか、下手をすると無駄な部分と思われてしまうのです。が、しかし、これはソナタ形式の展開部なのです。各主題が再現部の解決に向けて努力している姿と捉えると、何か感動的な努力の現れのように聞こえてきます。人間関係や人生の浮き沈みに例えてみるのもいいかもしれません。各主題がいろいろ手探りしたり、のたうち回ったりしながら盛り上がってゆき、まさに大団円を迎えるのかと思ったときに、そこで突然音楽が途絶え、曲の頭に戻ったのかというかの如く第1主題が始まります。再現部です。ブルックナーの再現部は、けっこう解りやすく感動的な場面だと思います。展開部を経たあとですので、すっかり同じ主題が再現されるわけではありません。各主題が変化して再現されていることでしょう。その後主題を使って大団円のように盛り上がり、第3主題もここに加わりますが、最初に聴いたときのような警告音ようなものだったのが、変化を遂げて感動的な大団円に貢献するところは、全体のクライマックスとも言えるでしょう。しかしこれで終りではありません。再現部の後にコーダという終結部が来ます。主に第1主題を活用しつつ、壮大な盛り上がりを見せて楽章を締めるのですが、第1楽章の場合は、まだ後に3つの楽章来るわけで、まだまだ終りじゃない的な予感を持たせるジワジワ感のあるコーダが来ます。ブルックナーの曲のこの部分は迫力があるので、初見でも確実に感動できる場面といえるでしょう。
そして第2楽章アダージョ、これはどの曲も例外なく非常に美しい音楽です。3部形式になっていること多く、こちらも構造、というか流れの順番を理解しているとより楽しめるのですが、予備知識無しでも充分美しい音楽です。第3楽章にスケルツォが来るのは伝統通りです。第4楽章に再びソナタ形式が来ます。第1楽章との違いは、まず主題がいきなりダイレクトに提示されることが多く、派手な開始となります。そして展開部を経て、今度はすごく盛り上がっていく感じで再現部に突入すため、まさに全曲中の結論と言った感じのクライマックスとなります。そして、終結のコーダは、第1楽章のときとは違って、全てが解決され、何処までも高らかに昇天してゆくかのようなコーダとなります。ブルックナーの交響曲は基本的に、この構造です。ロマン派の作曲家に分類され、曲の雰囲気に的に歴史的意義的にもやはりロマン派の作曲家ですが、曲の構造は割と古典的なのです。交響曲なんて、楽章は、時には3つだったり、5つだったりすることもあります。ブルックナーはどの曲もしっかりと4楽章構成になっていて、例外は死によって中断した第9番だけです。言い換えれば基本を抑えていればいいわけです。

では、前説が長くなりましたが、ブルックナー作の各交響曲について、個人的にお気に入りのCDを紹介していきたいと思います。なお、ずらずらとお薦めCDを書き連ねるとキモオタっぽいので、1曲につき1点に限定しました。楽曲の印象なども述べています。

交響曲第1番ハ短調
ブルックナーの初期作品のひとつで、コンサートなど取りあげられる機会は少なめであり、ブルックナーにすっかりハマってしまった人が最後の方に聴くというくらいの位置づけの曲となっています。しかしながら、私はブルックナーの曲中でもかなり好きな方です。短調でありながらも、暗いような要素はなく、活力に満ちあふれています。後の作品に見られるような深遠さ、神々しさのようなものはまだ感じられませんが、むしろそこがこの曲の魅力でもあります。第8番は素晴らしい曲ですが、ちょっと気分転換に聴いてみようかな、という感じにはなりにくいのも確かであり、それと比べるとずっと気軽にブルックナー的要素を楽しむ事ができます。第1番とはいうものの、第1楽章は3主題のソナタ形式、三部形式の緩徐楽章、一瞬でブルックナーとわかる個性的なスケルツォ、ソナタ形式による華々しいフィナーレなど、ブルックナー全生涯を通してのスタイルが完成されています。第1楽章は立派だし、緩徐楽章も文句なく美しい、いかにもブルックナーらしい素晴らしい楽章であり、初期とか第1番とか関係なく素晴らしいアダージョ楽章といえるでしょう。第3楽章スケルツォも、いかにもブルックナーのスケルツォになっています。特に第4楽章フィナーレは(他の誰もあまり褒めてくれないのですが)、私としては何の不満もない立派なフィナーレであり、気軽に聴けるような面もあって、車載オーディオに入れてよく聴いていたりします。後の代表作、第8番のフィナーレの萌芽のようなものを感じるのですが如何でしょうか。最後のコーダの部分も華やかであり、なんと素晴らしい曲だろうと思うのですが、もうちょっとみんな褒めてくれてもよさそうな気がします。お薦めのCDはティントナー指揮/ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団。たいへんパワフルな演奏で、これを聴くともはや他のCDでは物足りなくなります。

交響曲第2番ハ短調
これも初期作品であり、それほど存在感はないものの、個人的にはこれもなかなか気に入っております(まぁ結局どの曲も好きなわけですが)。ブルックナーは演奏時間70分ほどの長大な曲として作曲したのですが、初演の際には大幅に改訂して55分くらいの作品となっています。初稿では第4楽章が最も長く、緩徐楽章が第3楽章に来たバージョンもあるなど、フィナーレ重視型の交響曲だった様子が覗えますが、改訂後はなんとフィナーレが半分ぐらいの長さになっており、全体の構造という点では意味合いの異なる曲となっています。コンサート等で演奏されるのは、まず改訂後の方で、こちらが公式版なのですが、最近は初稿のCDも見かけます。どっちがいいかは微妙なところです。自分が聴くなら初稿を取りたいのですが。私のお薦め盤はアイヒホルン/リンツ・ブルックナー管弦楽団です。こちらは初稿の演奏で、初稿でも1872年稿と1873年稿の二種類があり、なんと両方演奏したものが、CD2枚組になって収録されています。私のお気に入りは、どちらかというと1872年稿です。緩徐楽章が第3楽章にきているものです。この曲の特に第一楽章の流れの良さは何度でも聴きたくなる良い曲であり、じっくり聴けば誰でも魅了されそうなところですが、このCDは特に第一楽章前半が素晴らしいです。ブルックナーの曲は展開部など頑張りすぎている為に細切れ間があったりすのですが、第2番は流れがよくて、とても気持ちいい曲だと思います。また、フィナーレ重視型の初稿だけあって、フィナーレの迫力はなかなかです。最後のコーダの印象が、改訂版とどっちがいいかは私も賛否付けがたいところなので、気に入ったら両方聴いていただきたいところです。

交響曲第3番ニ短調
この曲あたりから作曲者の技術がかなり成熟しており、もはや初期でなはく中期作品に分類されます。コンサートでの演奏頻度も高くなってきます。私はそれほどコンサートに出かけるわけではないものの、それでもライブで3回は聴いた記憶があります。とは言うものの、実際この曲を聴いていきなり気に入るような人は少ないんじゃないでしょうか。それはこの曲の初演が歴史的な大失敗に終わったことからも覗えるような気がします。しかしながら、第1楽章はブルックナーのソナタ形式の見本のような楽章であるといえるでしょう。他の曲を充分聴いてから聴けば、とても素晴らしい楽章であることが理解できると思います。続く第2楽章もとてもよくなってきています。緩徐楽章は既に第1番、第2番でも充分に美しい音楽でしたが、それに深遠さみたいなものが加わってきて、この時点で神の領域に片脚を突っ込んでいるといえるでしょう。第4楽章は比較的短いのですが、最後のコーダが素晴らしく、これは上手いオーケストラと音響の良い会場で聴くと、本当に、どこまでも高らかに昇っていくようなフィナーレです。これはCDではわからないかもしれません。お薦めは、ヴァント/北ドイツ放送交響楽団。突出して凄いような感じはしないのですが、なんというか、全体としてこの曲の旋律の良さをバランス良く伝えてくれているような気がします。

交響曲第4番変ホ長調
ブルックナーの曲は理解するまで時間がかかるものですが、例外的に第4と第7は万人に親しみやすい作風であり、特に第4番は入門用として薦められることも多い曲です。それだけに、ブルックーの神髄には程遠いような印象を受けなくもないという感じが無きにしも非ず、もしかしたら逆にブルックナーを好きな人にとっては一段低く見られてしまうような傾向があるのではないでしょうか。それでも、第7はその完成度の高さ、そして第2楽章の崇高さから、名曲であることに異論はないと思いますが、それにくらべて、第4番の方はちょっと甘くみてしまったりするようなことがあるのではないでしょうか? 聴きやすいけれれども、それだけにけっこう退屈、とかそんなふうに思ったりはしていないでしょうか? そんな人はケルテス指揮/ロンドン交響楽団を聴くべし。この曲がこれほどまでに凄い曲だったのかと、考えを改めるはず。

交響曲第5番変ロ長調
個人的にブルックナー中最も好きな曲です。それどころか、あらゆる音楽ジャンル中で最も好きな物を挙げよと言われたら、この曲は真っ先に候補として検討せねばならぬぐらいなのですが、しかしこの曲の魅力をいったいどう説明したらよいかはわかりません。最初に聴いたときには、いったい何を言っているのかわからないと思うのが通常の反応であると思います。それどころか、これは音楽なのかと疑われるかもしれません。ふつうの人が聴いたらちっとも面白くもないと思われそうなメロディをひたすらこねくり回して80分近い作品にしているという、たぶんほとんどの人にとっては最後まで聴き通すのが苦行か何かと思われるものであろうかと。いったいどういう思考の元にこのようなものが生み出されるのか、と不思議に思うこと頻りです。しかしながら、対位法とフーガを駆使しながら巨大な構造物のように構築してゆきます。その壮大さはブルックナーの全曲中随一と言えるでしょう。その他の音楽全て見渡しても、これほど強固で厚みのある重厚な音楽を私は他に知りません。かつては「城塞交響曲」というニックネームもついていたそうです。対位法の為かあるいは壮大な建築物的な構造からか「中世的」と言われることもありますが、まさに中世ヨーロッパの堅固な要塞、あるいは巨大なゴシック建築を思わせる壮大な曲であるといえるでしょう。それでいて時に寒々としたアルプス以北の中世の風景を思わせるような乾いた音も魅力的です。第2楽章の美しさも際立っています。ブルックナーの緩徐楽章はいずれも名楽章であり、特に後期三部作は音楽史に名を残す名緩徐楽章ばかりです。しかし、私が最も美しいと思うのは、この第5番の緩徐楽章です。そして、凄いのが第4楽章フィナーレです。ここまでのブルックナーの曲は古典的とも言える、第1楽章偏重的なところがあるのですが、ついにこの第5番で壮大なフィナーレ楽章が現れます。ただ、第1楽章も立派なものであり、フィナーレ型というよりは、両端重視型というように言えるかもしれず、この点もまさに城塞的な構造の交響曲といえるでしょう。この曲のCDでお薦めなのは、アイヒホルン指揮/バイエルン放送交響楽団です。第1楽章の立派さ、そしてアダージョ楽章の厚み、フィナーレの締めの迫力など、どこをとっても理想のブル5と言えるでしょう。

交響曲第6番イ長調
ブルックナーの曲中でも実は最も存在感の薄い曲なんじゃないでしょうか。中期の作品のわりには規模が小さめ、と言っても、演奏時間的にすごく小さいというわけでもないのですが、大作である第5番とその後の名作群に挟まれてしまって、うっかり忘れてしまいがちなところはあるかと思います。しかしながら、第4や第7と並んで、ブルックナー入門作として適しているのではないと思われます。特に第1楽章が良く出来ています。開始から盛大に盛り上がり、そして中間部分はしみじみと味わい深く、再現部で再び盛り上がり、遥か天上界に昇ってゆくかのような晴れやかなコーダで締めくくられるという、もはやこの楽章だけで交響曲的要素が詰まっていそうな気もします。が、緩徐楽章も、スケルツォも、そしてフィナーレもそれなりに良く出来てるので、やはり全体を聴いて損はありません。レーグナー指揮/ベルリン放送交響楽団がお薦めです。ちょっと軽めな感じがするかもしれませんが、本曲に限れば、ブルックナーの大家みたいな演奏家よりも適しているのではないかと思います。

交響曲第7番ホ長調
ここから先はブルックナーの後期作品に分類され、いずれも名品揃いですが、特に第7番はブルックナーにしては珍しく、万人に好かれそうな感じの名曲感漂う作品であり、第1楽章が始まったその瞬間から、ああこれは名曲が始まるんだなと誰にでも理解できる作品といえるでしょう。ブルックナーファンの誰もが指摘する問題は、後半の第3~4楽章、特にフィナーレがこじんまりとしているという点でしょうか。もしも第4楽章が壮大な規模であれば、続く第8番と並んで代表作となったかもしれません。でもまぁこれでいいんじゃなかろうかという気もしないでもないです。ここに壮大なフィナーレがあったら、なんかちょっとクドいような予感もします。肯定派の意見としては、ハイドン、モーツァルトら古典派の交響曲はどちらかというメインは第1楽章であり、フィナーレの扱いにはけっこうブレがあって、ときにオマケみたいな感じすることがありました。ベートーヴェンですらその傾向があります。そういう意味でいうと、長調の明るい曲調、第1楽章メインの構造など、まさに初期交響曲の構造のどおりと言えます。古典派交響曲の構成を、ロマン派的な音楽で奏でているという感じでしょうか。これは、これで大正解なわけです。さて、お薦めの演奏があるかといえば、べつにどの演奏でも、良く聴こえるような気がして、そんなに気にしなくていいかと思います。

交響曲第8番ハ短調
ブルックナーの代表作にして、交響曲界の代表的作の一つとも言えるでしょう。80分くらいかかる曲で、演奏によってはCD2枚組になるこもともあります。この曲の存在を知ったときは、たった1曲が80分もかかるというだけで只者ではない、そんなことがあり得るのかと思ったものです。実際にはこの作品の前にも後にも、もっと長大な音楽作品はいくらでもあったし、オペラなどは3時間を超えるのが普通なぐらいなのですが、あれは歌やストーリーがある、いわゆる標題音楽であって、それとこれは別です。交響曲という絶対音楽ジャンルで、しかも4楽章構成を守りつつ、1曲が80分というのはやはり特別なことであろうといえると思います。しかも、これは誰もが指摘することですが、この曲のどこをとっても無駄なところが一切ない完璧な作品です。歌曲さえ含まれない、純粋音楽でこれだけの長さを、万人が納得いくような無駄なく構成しているというのは、まさに奇跡的所業といえるでしょう。この曲の強みは、後半の2楽章が強力であることでしょう。尻すぼみ感がなく、まさにフィナーレに向かって突き進んでいくようなところが、曲全体としての構成に成功しているのでしょう。ベートーヴェンの第九のようなフィナーレ重視型交響曲であり、その為、スケルツォが第2楽章、アダージョが第3楽章というように順番が入れ替わっています。特に第3楽章はアダージョ楽章界の頂点で有り、他の誰のどんな曲のアダージョ楽章を相手にしてもこれに勝てるようなものは存在しない言える傑作です。などというと言い過ぎかもしれませんが、これに関してはべつに取り立てて誇張というほどでもないと思います。第5番もフィナーレ型と分類されるかもしれませんが、私としてはあれは第1楽章と第4楽章の重要度が対等な、いわば対称型という段階で、まだフィナーレ型ではありません。最後の第9番が未完に終わったことも考えると、実はブルックナー唯一のフィナーレ型交響曲が第8番なのかと思います。まさに代表作であるといえるでしょう。フィナーレである第4楽章は、どうしても同じフィナーレ型交響曲であるベートーヴェンの第九と比較したくなりますが、ベートーヴェンの方がずっと知名度も高く感動的な名作であることは確かなのですが、かなり人間的な葛藤に満ちあふれておりそこに感動があるわけですが、それと比較すると、この曲のフィナーレは感動的ありながらも、人間的な葛藤はほとんど超越している感じがします。どっちがいいとか悪いとかはないと思いますが、ブルックナーの方はどんな思いでこのような音楽が出来上がったのかと不思議に思うことがあります。ティンシュテット指揮/ロンドン・フィルのCDがお薦めです。このCD、あまり話題になることもなく、ものすごい名演という感じもしませんが、バランス良くこの曲の良さを伝えているのではないかと。ギリギリCD一枚に収まっている点も聴きやすくてよろしいです。

交響曲第9番ニ短調
ふつう交響曲は4楽章構成であり、特にブルックナーはきっちりとその通りに作曲していますが、第9番は作者の死によって第3楽章までしか完成していません。しかし、技術的にも内容的にも芸術的にもこれほど深い深淵まで到達した交響曲は他にないのではないか、と思わせる曲です。極めるところまで極めると、人はここまで到達できるのか、という見本ともいえるでしょう。第8番と比べると第1楽章が巨大化しており、それは単に曲の長さだけではなくて、内容の濃さも含めて規模が大きくなっており、まさにこれがメインという感じがします。もし、完成されていたなら、これにいったいどんなフィナーレが配置されたのであろうかと気になるところですが、同時に、実は3楽章構成で完成されているのではないかという気もします。第3楽章に緩徐楽章がきていることからも、壮大なフィナーレが待っていることと思いますが、巨大な第1楽章をもしのぐフィナーレとはいかなるものか。でも、さすがに濃い味過ぎないだろうかとか、いろいろ想像しますが、まぁ、どっちみちわかりませんが、しかし、現実的な問題としては、長さ的に現状の方がコンサートのプログラムとしては扱い安そうな気も・・・。私のお薦めのCDですが、シューリヒト指揮/ウィーンフィルですかね。これは誰も彼もがベストに挙げるCDなので、これに関しては取り立てて説明とか特にないのですが、自然な流れに任せた感じなところがよいんではないでしょうか。

ブルックナー
写真は私が昔ブルックナーの没後100周年のときにウィーンに滞在したときに撮ったブルックナーの銅像の写真。

| 音楽 | 12:43 AM | comments (0) | trackback (0) |
クレサンロールキャンバス No .13 入手しました。


極細目亜麻、油彩用地塗りです。


| 絵画材料 | 11:12 PM | comments (0) | trackback (0) |
天然ウルトラマリンの抽出実演動画 後編
前回、ラピスラズリ岩石を砕き、樹脂などでパテを作るところまで進みましたが、いよいよ抽出の場面です。

[Medici] 実践・天然ウルトラマリンの抽出 #2


チェンニーニの方法では、器と灰汁を換えつつ、くり返し抽出してゆくのですが、初めの方は濃い青が採れ、徐々に薄くなってゆき、最後の方にはアッシュブルーといったような灰色がかった青になります。しかし、実際やってみると、2番目の方が濃かったりします。

抽出後は丁寧に洗浄して完成となるのですが、そちらも収録して公開済です。

[Medici] 実践・天然ウルトラマリンの抽出 #3 天然ウルトラマリン顔料の完成~比較


抽出の段階によって、様々な色味、粒径のウルトラマリンが得られますが、どれがベストなのかというと、展色剤に何を使うかによっても変わってきそうな気がします。油絵具にするのか、テンペラで使うか、写本のようにゴムで使うか。また、この方法で抽出した後に、水簸などで粒径を分けることによっても、違うグレードの顔料ができるかと思いますが、その辺も動画で語っております。

| 絵画材料 | 11:04 PM | comments (9) | trackback (0) |
ウルトラマリン抽出実演動画
ラピスラズリ原石からの天然ウルトラマリン抽出、その実演動画をアップロードしました。

実演しているのは鳥越さんで、私はそれを見ながらいろいろコメントしているだけですが。たぶん通常よりは非常に少ない量で実行していると思いますので、このまま、手軽にマネして抽出体験をすることができると思います。動画ではラピスラズリを砕く際に、配管を使って自作した鳥越さんお手製の装置を使っていますが、ハンマーと乳鉢乳棒でも、もちろん粉にできます。

ウルトラマリンについては過去に、抽出その他について語る動画を公開していますので、そちらも合せてご覧頂ければと思います。


| 絵画材料 | 12:00 AM | comments (0) | trackback (0) |

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